2017年08月17日 - ビジネスブログ

オールウィン社会保険労務士事務所
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2017年08月17日 [Default]
難しい訴訟が始まります。

電子部品大手会社に勤めていた正社員の方が、「休日に」バイクを運転中、衝突事故に遭い、首の骨を骨折する重傷を負いました。
その後、下半身が完全に麻痺し、上半身も思うように動かなくなり車いすを利用するようになりました。

この方の処遇をめぐる問題です。

会社には、就業規則があり、「任意規定」ではありますが休職制度を設けております。
任意規定というのは、規定してもしなくても会社の自由という意味です。

当然、会社は休職制度を採用し、社員の方に休職を命じました。
休職規定が任意規定であるため、休職期間も任意に定めることができ、会社によってさまざまなのが現実です。
そして、休職期間が終わっても、「業務提供ができない」場合は「休職期間満了」となり自然退職となるという定めが一般的です。

当然事故に遭った方は、車いすを利用するぐらいですから休職期間満了時に「業務提供ができる」とはいきません。
会社は、休職規定に則って、「復職不可」とみなし、休職期間満了とともに退職扱いとしました。

これまでの経緯をご覧になって会社の対応は間違っているのでしょうか?
おそらく、今まででしたら、いや現在も「必ずしも間違ってはいない」と思います。

ところが、事故に遭った方は、「会社が復職を認めず退職させたのは違法だ」と訴えたのです。
求める内容は、「雇用の継続」「障害への配慮」です。

何点かの問題点が考えられると思います。

一つは、休職期間満了時の「業務提供の可否」です。
当然、車いすを利用するので、今までと同じような業務提供はできません。
しかし、この方は「今まで通りの業務提供は無理だが、別の業務ならできるのだから会社は配慮するべきだ」と訴えたのです。
休職期間満了前に、この方から会社に要件を伝えております。
〇 リハビリの結果、今までより時間がかかるがパソコンは使える
〇 週の半分は在宅勤務、無理なら週1日は昼で早退
〇 自宅から会社までの新幹線と介護タクシー代で1日あたり約15,000円の支給
〇 給与は下がることはやむを得ない

これを会社が「業務提供可能」と判断するかどうかでしたが、会社は「復職不可」と判断したのです。

会社としては、今まで通りの業務提供はできなくても、それに代わる業務があるかどうかは検討したのだと思います。
しかし、この方の上記のような要件を吞んで復職させるまでの業務は無いと判断したのでしょう。
復職の基本的な要件は、「従前の職務を通常の程度行える健康状態に回復したとき」と考えられます。
ただ、会社が一方的に復職不可とするのを防ぐため「配置転換等の現実的可能性の有無を検討」が求められております。

要は、この方は「この要件を満たしてくれれば復職可能」といってはいるものの、果たして会社がそこまでの義務を負うのかどうかということです。

その点でもう一つの問題です。
それは、平成28年4月1日施行の「改正障害者雇用促進法」に該当するかどうかです。
文字通り、障害者の雇用促進のために企業に配慮を求める内容となっております。
この中に、障害者に対する「合理的配慮の提供義務」というものがあります。
簡単に申し上げると、「障害者の障害の程度に合わせた配慮を行ってください」というものです。
例えば、今回のように車いすを利用する方がいる場合は、その方に合わせて机や作業台の高さを調整してくださいという感じです。

障害者雇用

また、この法律の中で以下のような文面があります。
「事業主に対して過重な負担を及ぼすときは提供義務を負わない」

要は、合理的配慮をすることがあまりにも会社にとって負担になる場合は、この法律に従わなくてもよい、ということです。

以上のような問題点を踏まえて訴訟で争われることになります。

従業員が、個人的な休日の事故(過失)により障害になり、会社は休職制度を利用し、休職期間満了時に、一般的には復職不可の状態で、今まで通りの業務提供はできず、それ以外に配置転換することも難しく、過大?な要求を呑んでまで復職させる義務があるのか?改正障害者雇用促進法の「過重な負担」とはどの程度か?

今後の障害者雇用の一つの目安になる重要な訴訟になると思います。




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